焙煎理論:コーヒーの香りと味わいを最大限に安定して引き出す輻射熱焙煎(coffee roasting by radiation heat)

焙煎はコーヒーの品質を決定する、最も重要な要素のひとつです。

当店の焙煎においては、特に以下の要素を大事にしています。
・コーヒーが持つアロマとフレーバー(香りと味わい)をしっかりと引き出していること。
・透明感があり、飲みやすいコーヒーであること。(クリーンカップ)
・浅煎りでも深煎りでも、極端な味わいにならずバランスが取れていること。

このような品質を実現するために、当店では輻射熱を重視し、豆にしっかりと熱を与え、香りと味わいを最大限に引き出した焙煎を行っています。
この記事では当店で行っている輻射熱焙煎と、その理論構築までの試行錯誤についてご紹介します。

輻射熱による焙煎理論構築までの道のり

焙煎はコーヒー豆に化学的変化をもたらし、香りと味を引き出すために、最も重要な要素です。そして良い焙煎をするには、輻射熱が焙煎の中で果たす割合を理解し、理論を構築する必要があります。

コーヒー豆の卸売からスタートした当店は、多くの飲食店にご満足いただくため、徹底してクオリティを追求し、この輻射熱焙煎の理論を確立しました。

しかしすんなりと現在の焙煎にたどり着いたわけではありません。焙煎機を購入した当初は焙煎理論が書かれた書籍を買い漁り、そういった書籍やネットで見つけた有名店の焙煎記録を参考にしながら、様々な焙煎を試しました。また都内の焙煎店をめぐり、その味わいを研究し、可能なときは焙煎について意見を求めました。

そうして何百回と焙煎を繰り返し、その詳細をノートに記録して、ガスや排気設定にともなう味の変化を比較し分析してきました。しかしそれでも、焙煎に満足することはできませんでした。その理由は焙煎の不安定さ、クオリティーのムラにありました。ある程度焙煎を学んで繰り返せばそれなりの味わいのコーヒーを焙煎できます。しかし会心の出来と言える焙煎ができることはそれほど多くはありませんでした。それにムラができるということは、焙煎を理解できていないということであり、もっと美味しくできる焙煎があるかもしれないということになります。

一部ではそうした不安定さを肯定するような風潮も、正確で論理的な分析が少ないことも否めませんでした。「焙煎には職人の勘が必要」「その日の天気により焙煎を変える」「豆の色の変化を見て焙煎度合いを決める」など、実際に焙煎を行っていると首をかしげたくなるような言説が散見されるのです。風速や気温を測定しても、焙煎に大きな影響を与える変数として確認できたことはありません。またスプーンによる豆の目視では、温度計ほど正確に焙煎度合いを確認できるとは思えません。

そうした中で輻射熱による焙煎理論の確立に至るには、あるきっかけがありました。

輻射熱焙煎の理論:投入温度とダンパーの調整で輻射熱による焙煎を行う

輻射熱という要素に着目し、焙煎理論を構築するに至ったのは、当店で使用している焙煎機であるフジローヤルのスタッフさんのアドバイスがきっかけです。焙煎について話し合う中で「しっかりとコーヒーに熱をいれるには、はじめの5分間が大事」とアドバイスをいただき、焙煎のはじめに豆を投入する際の釜の温度を大きく上げて、焙煎をテストしてみることにしました。細かく温度を上げて記録した結果、一般的な焙煎業者のロースティングでは見ることのないような高い投入温度のほうが、豆の香りと味わいが圧倒的に強くなり、毎回同じ品質で焙煎できることがわかったのです。

ではいったいなぜ投入温度を上げるとコーヒーの香りと味わいが発達し、品質が安定するのでしょうか?それは焙煎において豆に与えられる輻射熱の割合が大きくなるからだと考えられます。

コーヒー豆に与える熱量をもっとも簡単に調整できるのは火力(ガス、電気)です。この火力は3つの形でコーヒー豆に熱を与えます。豆に接触したドラム部から伝わる接触熱(conduction)、空気から伝わる対流熱(convection)、電磁波から伝わる輻射熱(radiation)の3つです。

火力が強くすればするほど焙煎は早く進み、焙煎時間は短くなります。が、火力を強くしたからと言ってコーヒーの香りや味わいがより強くなる、というわけではありません。同じ焙煎時間で同じ焙煎度合いの豆を比較すると、初期投入温度が高く低い火力で焙煎した場合と初期投入温度が高く低い火力で焙煎した場合では、圧倒的に前者のほうが香りも味わいも強くなります。

この現象は先程の3つの熱の伝わり方の違いで説明することができます。つまり初期投入温度が高く予熱に時間をかけた場合、焙煎機の金属(鋳鉄)に蓄積された熱の量が多くなり、ここから輻射熱として伝わる熱の割合が多くなります。対して焙煎中の火力は輻射熱としてだけではなく、接触熱、対流熱として伝わります。輻射熱は電磁波を媒介とし豆の内部まで浸透して化学変化を起こし、香りと味わいを生み出します。しかし接触熱や対流熱では豆の表面にしか熱が伝わらないため、輻射熱のような化学変化を強く起こすことができないのです。それでも水分の蒸発と豆の色の変化(メイラード反応)は引き起こすので焙煎は進行し、いざ飲んでみると香りが弱く味も薄い、ベイクド(baked)といわれるコーヒーになってしまいます。そのため予熱をしっかり行い、豆の投入温度を高く設定することで、輻射熱により熱を伝える必要があるのです。そして焙煎機自体にも、蓄熱性能の高さ、もしくは熱源自体から十分な輻射熱を与えることができる構造が求められます。

また輻射熱の割合を高めるためには、ダンパーによる排気量も細かく微調整する必要があります。ダンパーは焙煎機の排気機能を調整するもので、現在はどのメーカーの焙煎機にも必ずついている機能です。しかし業者によって排気の設定にはかなり差があります。

焙煎中の排気量が多い(=ダンパーを開ける)と対流熱の割合が多くなってしまい、しっかりと香りと味を引き出せません。(対流熱伝導率は流速が速いほど高くなるため)ですので当店では焙煎の前半(1ハゼ以前)まではダンパーは閉め気味にして、輻射熱による焙煎を徹底しています。焙煎の後半ではダンパーはある程度開けて、前半よりも排気量を増やします。すでに水分が蒸発した豆に強い熱量を与え続けるとボディが強すぎる、濃厚すぎる仕上がりとなるためです。しかしあまりに排気量を増やすと熱が入らず軽すぎる印象、ベイクドの印象が強くなるのでこの間で調整を行います。

このように輻射熱を重視して豆の投入温度を高め、火力、ダンパーによる排気量の調整を行うことで、コーヒー豆の香りと味わいを最大限に引き出す焙煎を確立することができました。

近年の焙煎傾向の中での輻射熱の位置づけ

近年の焙煎機のデジタル化にともなって多くのロースティングの記録、レシピが入手できるようになりました。焙煎機のメーカーも増え、ロースティングのコンテストも増えました。しかしレシピが増えても焙煎における輻射熱はあまり重視されてないというのが現在の感想です。

例えば1ハゼのタイミングやROR(温度上昇のレート)にこだわる方が多いですが、この2つは火力の強弱でいくらでも調整できるし、調整したからって豆に熱が入るわけでわありません。1ハゼまで6分でも8分でも、輻射熱で熱を入れなかったら香りが弱いベイクドになります。そして実際にこういったレシピで焙煎されたコーヒー豆を買ったり頂いたり、自分で再現してみたりすると、ベイクドであることがよくあります。

もちろん輻射熱の重要性を熟知して、香り高い豆をご提供されているロースターさんもいらっしゃいます。しかし焙煎は企業秘密というお店も多いので、肝心要の部分はなかなか表に出てこないのかもしれません。

まとめ

いかがでしたでしょうか?この記事では焙煎における輻射熱の重要性と、輻射熱を重視した焙煎理論についてご紹介しました。この焙煎理論を確立してからは数多くの飲食店様に当店のコーヒーをご採用いただき、実店舗を開くに至りました。

いまでも新たなコーヒー豆を焙煎するときや新しい焙煎機を使用するときは、常にこの理論を念頭に焙煎管理を行っています。記事を読んで当店の焙煎が気になった方は、ネットショップからコーヒーをお試しいただければ幸いです。