フェアトレード・エシカルに関する質問と回答

開店当初から2024年現在まで、よく学生や学校の先生方からフェアトレードやエシカルについてのご質問をいただきます。コーヒー販売業者という立場で可能な限りお答えしていますが、こちらに今まであった質問とご回答を記載しておきますのでご参照ください。なお出版物や収益性のあるネット記事の参考とする場合、ご一報いただけると嬉しいです。
なおフェアトレードの規約そのものに関するご質問は、フェアトレード・ラベル・ジャパン様にお願いいたします。

質問1:現在取り扱っているフェアトレードの規格について教えてください。

Fairtrade labeling organization (日本支部:フェアトレード・ラベル・ジャパン)
https://www.fairtrade-jp.org/

ここ以外に食品に関して規模の大きい認証組織はありません。基準が明文化されており監査があるので、こちらの団体に弊社も加盟しています。アメリカにはここから分裂した別組織もあります。雑貨などでもフェアトレード認証団体がありますが、基準と監査はかなり違います。

質問2:フェアトレードは農家の人にとって、どのような意味がありますか?

フェアトレード認証の条件には「小規模農家の選挙で運営される生産者組合からの購入」があります。小規模な農家が組織化することで、品質を改善し、販売先に対する価格交渉力を得て、より高い価格でコーヒー豆を販売できるようになります。これが私の考えるフェアトレードの主な意味です。

他にも以下のような規約が存在し、組合員である農家の生活向上に役立っています。
・雇い入れた労働者に対する法定最低賃金の支払い
・明文化した雇用契約
・児童労働の禁止
・選挙による組合長の選出
・抜き打ち、または定期の監査
・購入金額の一定割合を組合員に還元するためプール(フェアトレード・プレミアム)
・国債市場価格以上での購入

自分が調査したインドネシアでは同じ農家さんがコーヒーを販売するときにも認証商品として販売する方が高い値段で買い取ってもらえています。また組合に販売する方が組合の外のブローカーに販売するよりもかなり高い金額で売れます。

詳しくはこちらの記事をご参照ください。

スマトラ生産者訪問記 (2)

質問3:フェアトレードやその他のスキームにおいて、農家に対する高額な買取金額を設定することにはどのような意味があるとお考えですか?

フェアトレードはビジネスを通じて農家のエンパワーメントを行う試みですので組織化などの競争力の向上につながる取り組みに意味があると感じています。相対的に農家に払う金額自体を規定する試みはあまり意味がないと思っております。
なぜかというと、それは商品というよりは寄付であり、寄付には限りがあるからです。個別の農家への寄付よりも競争力の強化の方が、長期的には効果があるように感じます。
ただし、フェアトレードの規定のように、国際市場価格の乱高下から農家を守る目的で設定されている最低限の購入価格の基準には意味があると思います。

質問4:フェアトレード認証コーヒーを取り扱う上で、何かデメリットがあれば教えてください。

一番大変なのは、アメリカに比べて日本の商社が仕入れているフェアトレードのコーヒー豆の種類が限られているということです。また強いて言えば認証のための記録、報告などの手間もあります。

質問5:日本ではフェアトレードの市場が小さいと伺いましたが、その要因はどこにあるとお考えですか。

わかりません。自身はフェアトレードに関心をもち、可能な限り倫理的な食材を使おうとしていますが、基本的には飲食店の経営者なので全体的なことについて、はっきりとしたことを言える立場にないと思います。

質問6:サプライチェーンの全体像について教えてください。

伝統的には以下のようなサプライチェーンが一般的でした。
小規模農家→現地ブローカー→現地商社→販売地の商社→コーヒー業者

しかしフェアトレードでは以下のようなサプライチェーンとなります。
生産者組合or小規模農園→現地商社→販売地の商社→コーヒー業者
生産者組合の規模が大きいと、現地商社や販売地の商社はサプライチェーンに入らないときがありま

質問7:ダイレクトトレードとはなんですか?フェアトレードよりも農家にとってメリットがありますか?

ダイレクトトレードとは中間業者(商社)を介さずに農園と最終販売業者(ロースター)が取引することです。中間業者を抜くことでマージンを減らし、より多くの金額が農家に還元されることから、エシカルな取引と謳われることがあります。
しかし実際にはダイレクトトレード=高価格の買取、というわけではありません。例えば大手コーヒーチェーンは昔から規模の大きい農園や農業組合からダイレクトトレードで買い付けていましたが、その価格がフェアトレードより高いわけではありません。
買取価格は単純に豆のクオリティと購入量に依存します。例えば生産者組合がコーヒー業者(ロースター)に1トン販売する場合の価格が1キロあたり10ドルだとします。商社に30トン販売する際の価格は1キロ7から9ドルくらいになります。こういう場合、買取価格自体はダイレクトトレードの方が高くても、量が少ないため有難いのは商社との取引ということになります。
ダイレクトトレードで商社より極端に高い金額で買い取ることは可能かもしれません。しかしそれはトレードというより寄付に近い性質になり、市場の大きさは限られると思います。

質問8:フェアトレードに依存するより、個々の農家が起業家的にクオリティを上げてスペシャリティコーヒーを作り、ダイレクトトレードで世界に直接販売した方が農家の利益は上がるのではないですか?

個々の農家がクオリティを上げ、ダイレクトトレードして収益をあげるというビジネスモデル自体を批判する理由はありません。当店でもこういった豆をよく扱っております。
しかしこのようなビジネスモデルを展開できるのは元々ある程度生活に余裕がある方がほとんどだと思われます。例えば地元の首長、政治家、豪農などです。そこまで行かなくても親から何ヘクタールもの農園を引き継ぎ、教育を受け、資本があればビジネスを発展させていけることもあるでしょう。
しかし小規模な農家には1〜2ヘクタール、もしくはそれ以下の土地しか持ってない人も大勢います。一人で年老いて住んでいる文字の読めない人もいれば、出稼ぎに行った夫の留守を預かり子供を育てながら農園の管理をしている女性もいます。そういう方にビジネスを展開しろと言っても必ずうまくいくわけではありません。
また成長中とはいえ、高クオリティのコーヒー豆、スペシャルティコーヒーの市場は限られています。世界中の小規模農家がスペシャリティ、トップスペシャリティを作っても、とても売り切れるとは思えません。
従いましてこれらの理由から、フェアトレードのような生産者組合を支援する試みは今後も存在意義に変わりはないと思います。

質問9:フェアトレードの問題はなんですか?

包括的な研究が少ないことだと思います。特にフェアトレードの導入により、農家個々人に具体的にどの程度の収入増加があったのか調査、研究した例がほとんどありません。フェアトレードの効果を測定するためには、当店の記事のように、販売価格をフェアトレードの場合、フェアトレードでない場合、そもそも組合を通さない場合で比較する必要があると思います。
こういった調査がないか、2010年前後にネットで調べ2024年現在までちょこちょこ検索してますが、ほぼ見当たらないのが現状です。学生の頃のように徹底的に調べていないので、私が見落としている論文や本があるかももしれませんが、それにしても少なすぎると思います。
企業、フェアトレード団体や研究者がフェアトレードやエシカルな試みの効果について、具体的な効果を測定して公表してくれるよう期待しています。当店でもこういった調査をまた行いたいと思っていますが、費用と期間の面で、小規模な当店にはなかなか難しいのが現状です。