【これだけ読めば全部わかる】美味しいハンドドリップコーヒーの淹れ方(初級~上級編)

この記事ではハンドドリップコーヒーを初めて淹れる方から、自分好みの一杯を追求している方まで、あなたの一杯をレベルアップしてくれる、ハンドドリップ方法論をお伝えしたいと思います。
ハンドドリップの味は「温度」「挽き方」などの要素(変数)によりコントロールすることが可能です。上級になるに従ってこの要素はどんどん増えていきますが、いったいどの要素を気にしてドリップをすればいいのか、詳細を論じていきたいと思います。

初級編:美味しいドリップコーヒーのレシピ

「ともかく理屈はいいから美味しいコーヒーを入れたい」というお急ぎの方はこちらの当店のレシピを御覧ください。幅がある部分はお好みです。

【ハンドドリップの淹れ方】

1.器具を用意する
ドリッパーは HARIO V60(または円錐形のもの)をご使用ください。
フィルターペーパーは HARIO製 または CAFEC ABACAシリーズ がおすすめです。※HARIO製のペーパーは、製造工場や規格の違いによって品質差が大きい場合があります。
なかにはコーヒー粉が詰まりやすく、お湯が落ちにくいものもありますのでご注意ください。

2.コーヒー豆の量
抽出量の目安は以下のとおりです。・200ml 抽出する場合:15〜18g
・400ml 抽出する場合:28〜33g豆の量が多いほど、濃い味わいになります。

3.豆を挽く
豆は 中挽き(ザラメ程度)、または 中細挽き(グラニュー糖より少し大きい程度) に挽きます。
挽き終わったら、サーバーとドリッパーをセットしてください。※挽き目が細かいほど、味は濃くなります。

4.お湯の温度
お湯の温度は 90〜100℃ が目安です。※温度が高いほど、コーヒーの濃度は濃くなります。

5.蒸らし
コーヒー粉全体にお湯をまんべんなくかけ、30秒ほど蒸らします。

6.注ぎ方
200ml のコーヒーを淹れる場合は、70mlずつを3回 に分けて注ぎます。
400ml のコーヒーを淹れる場合は、140mlずつを3回 に分けて注ぎます。それぞれ、お湯が落ちきるまで待ってから 次のお湯を注いでください。抽出時間の目安は以下のとおりです。・200ml の場合:2分〜2分30秒程度
・400ml の場合:3分〜4分程度

お湯が落ちきったら、ドリッパーを外して完成です。

※注ぐお湯の総量は、目標の抽出量よりやや多めになります。
これは、ドリッパー内のコーヒー粉とフィルターペーパーにお湯が吸収されるためです。

7.ポイント
お湯は 円を描くように、全体へまんべんなく 注いでください。

コーヒー豆はお湯をかけるとガスで膨らみますが、上からお湯をかけて潰してしまって問題ありません。

ドリッパーの端からお湯を注がないようにしてください。

もしコーヒーをよりクリアな味わいにしたい!と思ったら、抽出量を3分の2程度に減らして(2投目までで3投目は行わない)、あとはお湯を注いで濃さを調整してみてください。より雑味の少ない味わいをたのしめます!

中級編:ハンドドリップコーヒーの味を決定する基本要素

さて、初級編ではハンドドリップのやり方(レシピ)をご紹介しました。ではここで利用されているコーヒーの味を決定する【要素】とは一体何でしょうか?この中級編ではまず、コーヒー事業者で認識が一致している基本的な【要素】を解説していきます。

ドリッパー

現在の自家焙煎、スペシャリティのコーヒー業界ではHARIOのV60などの円錐形ドリッパーを使用するのがほぼデフォルトとなっています。ほかの形状に比べ、抽出濃度が高く、かつ雑味がないということで、当店でも採用しています。もちろんこれ以外のドリッパーにもファンはいますし、円錐形ドリッパーの問題点も指摘されておりますが(後述)、ここ20年のドリップ議論はほとんどこの円錐形ドリッパーの使用が前提となっているため、この記事でもその前提で話を進めさせていただきます。

フィルターペーパー

円錐形ドリッパー用のフィルターペーパーも各社からでておりますが、たまに目が詰まりすぎて、お湯が落ちにくい製品があるので、そういったものはさけましょう。当店ではCAFECのアバカの繊維を利用しているというフィルターペーパーを利用しています。

コーヒー豆の量

当然かも知れませんが、使用量が多いほど味わいは濃くなります。

挽目

豆の挽き方が細かいほど、味わいは濃くなります。これは水に触れる豆の表面積が増え、成分の抽出量が増大するためです。ただし、あまり細かくすると苦みや渋みなども強く出てしまうので、中細挽程度までに抑えるのがいいと思います。粗挽きにすればクリアな味わいになりますが、相当に使用量を増やしたり、抽出時間(お湯の注ぐ回数)を増やさないと中細挽きの濃度は確保できません。

お湯の温度

温度が高いほどコーヒーは濃く抽出されます。ただしあまりに高いと苦みや渋みも強くなるので注意が必要です。コーヒーの成分がお湯に抽出されにくい浅煎りは94~100℃、中煎りや深煎りは90~96℃がおすすめです。90℃以下でドリップするとかなり薄い印象になるため、他の要素でがんばって抽出濃度を上げていく必要があります。
最近では「お湯の温度を変えても濃度が変わるだけで、味のバランスは変わらない」という研究もあります。なので「ちょっと濃すぎるな」という印象にならない限り、しっかり抽出できる高めの温度で問題ありません。

お湯の投入回数と抽出時間

投入回数と抽出時間は実はほぼ同義です。(投入回数が増える→1回の投入量が減る→お湯の落下速度が遅くなる→時間がかかる。)投入回数が増え、抽出時間が伸びるほど、抽出濃度は濃くなります。
この現象は基本的に1)抽出時間が伸びるためにより多くの成分が抽出される、2)水が投入され新しくなると濃度勾配が高まり、より多くの成分が抽出される。と説明されることが多いです。

しかしながら当店では2)の説明には問題があると考えています。例えお湯を小分けに投入し、水が新しくなったその瞬間に濃度勾配が高まることで抽出が加速しても、お湯の量が小分けになったことですぐに飽和状態に近づき抽出速度は大きく落ちます。従って、濃度勾配の理屈は最終的に抽出濃度が濃くなっていることの説明になり得ていないと考えています。

ドリッパーの素材

ドリッパーの素材は主にプラスチック、陶器、金属製のものがありますが、当店ではプラスチックのものをおすすめしています。理由は明確でプラスチックが一番ドリッパー内の温度を高く保っていられるからです。これはプラスチックの熱伝導率が陶器や金属に比べ、圧倒的に少なく、外気の影響をもっとも受けにくいからです。陶器は事前に温めておいてもお湯から熱量を奪ってしまう上に、外気で多少冷えていきます。金属は論外で、外気の影響でどんどんと冷えるので、使わないのが無難です。

さていかがでしたしょうか?以上で中級編は終了となります。「これだけ?」と思われた方も多いのではないでしょうか。実際にはこれよりもっと色んな要素がコーヒーの味わいを決める変数として扱われています。しかしそれらの要素は必ずしもコーヒー業界全体でのコンセンサスがあるわけではありません。なのでここからはそれらの要素を上級編として紹介したいと思います。

上級編:ハンドドリップコーヒーの味を決定する議論中の要素

現在多くのコーヒー店や研究機関がコーヒーの抽出方法について論じています。そのなかにはドリップの際に参考にしたいもの、科学的に聞こえるけど本当はよくわからないもの、わざわざこんなことをする必要があるの?と疑問に思うものなどさまざま要素が存在します。
この上級編では未だ決着がついたとは言えないそれらの要素を紹介し、当店の考え方を述べていきたいと思います。

お湯の注ぎ方(コーヒードームVS撹拌)

まず伝統的に日本のハンドドリップ文化ではコーヒー粉がガスで膨れた状態=コーヒードームを崩すべきでない、中心部のみにそっとお湯を注ぐべきと考えられてきました。これはこのコーヒードームの泡の中には苦みや渋みの原因となる「アク」が蓄積されており、これがコーヒーの中に流入しないようにするためと説明されてきました。なぜ液体ではなく「泡」に雑味が集中すると言われるのかは、調べてみましたがはっきりとした根拠は見つかりませんでした。しかしエスプレッソの分野では泡に微粉、オイル、苦みなどが吸着されるという論文があります。(D’Agostina 2004)(Piazza 2007)
その一方で近年ではドリッパー内でコーヒー粉を撹拌することが提唱され(粕谷哲氏、ジェームス・ホフマン氏やスコット・ラオ氏など)、日本伝統のアク理論と、真っ向から対立しています。撹拌も棒でドリッパー内をかき混ぜるもの、ドリッパー自体を軽く回すものなど、いくつかの方法論があります。なぜ撹拌を行うのか?この理由には撹拌論者により若干の差異がありますが、基本的には以下の理由となります。

①コーヒー粉全体を湯に接触させ、結果を均一化する。
粉が不均一に湿っていると、水が特定の通り道に集中する「チャネリング」が起こります。これは局所的な過抽出(ひどい苦味)と未抽出(酸っぱさ)を同時に引き起こし、カップの質を落とすと考えています。
②対流により抽出効率をアップする。
撹拌によりドリッパーないに水流をおこし、コーヒー粉と水の接触量を増やすことで成分抽出を加速することができます。これは主に棒でかき混ぜるタイプの撹拌で主張されています。

ではコーヒードームと撹拌、どちらの理論が正しい、もしくは有益性が高いのでしょうか?当店では「撹拌のほうが有益である。ただし棒を使ってまでかき混ぜる必要はない。」と考えています。上記①は必要だが、②は不要という立場です。
たしかにコーヒードームを崩さない日本伝統のお湯の注ぎ方だと、コーヒー粉全体から均一に抽出を行っているとは言えず、味のムラの原因となります。当店ではコーヒードームの中心部ではなく、全体にお湯を注いでドリップしていますが、この方がしっかりと味が出てムラが無くなりますし、ネガティブな渋みや苦み、雑味が抽出濃度に対して相対的に強くなったとは感じません。一回目のお湯を投入したあとにドリッパー自体を軽く回して、コーヒーの粉を平らに治すのもありだと思います。(いわゆるフラットベッドを作る)ただしドリッパーを回しすぎると上記②で述べたように、対流が強くなり、雑味は抽出濃度に対して相対的に強くなってきますので、ともかくクリーンなコーヒーが好きという方はドリッパーを回すのはやめて、お湯をまんべんなく注ぐ手法にとどめておくのが無難だと思います。
また当店では棒での撹拌はおこなっていません。理由は3つあります。まず抽出量をアップするための要素は他に「コーヒー豆の量」「挽目」「温度」などがあり、特段に撹拌を行う必要性を感じないこと。次に棒を使った撹拌は、全てのスタッフで撹拌時間、撹拌速度を毎回正確に統一できないリスクがあること。最後に撹拌をやりすぎると簡単に過抽出となり、苦みや渋みが出すぎてしまうこと。これらの理由で当店では棒を使っての撹拌はしていません。

抽出最後の雑味の処理

前項のアク理論に関連するのですが、伝統的に日本では「注いだお湯が完全に落ちきる前にドリッパーを外すことで、雑味のある泡(アク部分)の混入を防ぐ」という方法論が存在します。また近年では「コーヒー成分の大部分はドリップの前半に抽出され、後半は苦味や渋味などの雑味などが抽出されやすい」との研究も複数存在します。(Severini et al. 2015)(Rao & Fuller 2018)
こうした内容を踏まえ、当店では「最後の投入分がゆっくりポタポタと、雫状になった時点でドリッパーを外す。そしてその時点で目標の抽出量が確保できるようにお湯の投入量を決める」という運用を行っています。ただ実際にはよっぽど長いこと放置して「もう一滴も雫が落ちない」というレベルまで行かない限り、特に雑味が増えたという印象を持ったことがありません。個人的な経験則ですが円錐形以外のドリッパーのほうがこの雑味は出やすいかもです。

当店のお湯足し調整理論

前述のようにコーヒーの主要成分は抽出の前半でほとんど抽出され、後半に雑味の比率が多くなります。したがって当店では「可能な限りクリアな味わいを楽しみたい!」というお客様に対しては「途中でドリップをやめてしまって、お湯を継ぎ足して好みの濃度に調整する」ことをおすすめしています。例えば200mlのコーヒーを抽出するのならばドリッパーから注ぐお湯の量を140mlに留め、お湯を継ぎ足すことで濃度を調整します。正直雑味を気にするなら、これ以上明確で、調整が簡単な方法はないと思っています。

投入湯量の配分調整で、本当に酸味や甘味などの味わいのバランスを調整できるか?(4:6メソッドなど)

・4:6メソッドとは
投入量の配分を変えることによりドリップの味わいを調整することができるという主張が、粕谷哲氏によるいわゆる4:6メソッドです。(さらにここから派生した様々なドリップ手法が存在しますが詳細は割愛します。)具体的には「1投目の方が量が多い場合(例:60ml→40ml)はより「酸味」が明るく、強調された味わいになる。2投目の方が多い場合(例:40ml→60ml)は 酸味の抽出量が減り、相対的に「甘味」がより強く感じられるようになる。」という主張です。
これは、コーヒー粉から成分が溶け出す速度が成分ごとに異なり、投入する水の量によってその抽出効率を段階的にコントロールできるという考えに基づいています。コーヒー成分は「酸味→甘味(糖類)→苦味・雑味」の順番で溶け出します。1投目の湯量を増やすと、最初に溶け出す性質を持つ酸味成分が、大量の新鮮な水と接触することでより効率的に抽出されます。一方、1投目を少なくすると酸味の抽出が抑制され、その後の2投目で抽出される甘味成分との比率が変わるため、甘みが強調され味のバランスが変化します。
また抽出の中盤から後半(4:6メソッドにおける残りの60%)での操作は、主に「濃度(ボディ感・強さ)」**を左右します。後半に注ぐお湯の合計量は変えずに、それを「何回に分けて注ぐか」を調整します。例えば180mlを1回で注ぐよりも、60mlずつ3回に分けて注ぐ方が、その都度ドリッパー内のコーヒ粉が撹拌され、より多くの成分が抽出されるためです。

これが4:6メソッドの概要ですが果たしてこれは本当でしょうか?
当店ではメソッド後半の「投入回数を増やすと濃度があがる」は実体験からも正しいと考えています。(しかし当店ではこれは撹拌が理由でなく、単純に抽出時間が伸びることが理由と考えています。ゆっくりと動きが少ないように注いでも、やはり濃度が濃くなるからです。)
そしてメソッド前半の「投入量の配分を変えることで酸味と甘味を調整する」という主張には根拠がないと考えています。理由は大きく分けて2つあります。

・4:6メソッドの問題点

①実際のカッピング経験と隔離しており、成分分析実験もない。
まず私が4:6メソッドを試してみても、1投目の量を多くしたほうが酸味を強くなったという実体験は得られませんでした。同様の主張はネット上に散見されます。
またこの主張を裏付けるためには「1投目の方が多い場合(例:60ml→40ml)と2投目の方が多い場合(例:40ml→60ml)の科学的な成分分析を行い内容量を比較する」という実験が必要ですが、そのような実験データは見つけることはできませんでした。

②理論の根拠となる説明が恣意的である。
「酸味や糖分などの成分により抽出速度が異なるから、投入量の配分で味わいを調整できる」という主張は本当に論理的でしょうか?
まず考えられるのは「1投目に成分抽出量が多かろうが、少なかろうが、残りの成分は2投目、3投目にでてくるのだから、最終的な味わいのバランスは変化しないのでは?」という疑問です。この疑問に対する4:6メソッド派の答えは、いまのところ見つかりませんでした。
つぎに問題となるのは「コーヒー成分は酸味→甘味(糖類)→苦味・雑味の順番で溶け出すのだから、1投目の量が多いほうがより多くの酸味成分を抽出できる」という理屈があまりに大雑把というところです。確かに「ドリップを開始した瞬間から相当の長い間、糖は抽出されないならば、その間のお湯の投入量が多いほうが濃度勾配が高くなり酸味がより多く抽出される。糖の抽出が始まってから投入量を減らせば濃度勾配が低くなり、抽出される糖の量が少なくなる」と粕谷氏のメソッドを汲み取るならば、理屈として成立はします。しかし具体的にこの効果がどれほどのものかは(1)糖の抽出がドリップ開始後何秒後から始まるのか、(2)濃度勾配の差による抽出速度の差がどれほどのものか、を把握しなくてはなりません。しかし刈谷氏の主張ではこの(1)(2)に対して言及が見られず、論拠が極めて曖昧です。
さらに近年の、カリフォルニア大学デービス校(UC Davis)の珈琲センターが実施し、スペシャルティコーヒー協会(SCA)によって発表された分画抽出(Fractionation)実験では、「糖の抽出はお湯が珈琲粉に接触した瞬間、すなわち 0秒後から開始される。さらに、化学的な濃度という観点で見れば、糖の濃度は抽出の 最初の30秒間において最大値を記録する 。」と結論がでています。従って「コーヒー成分は酸味→甘味(糖類)→苦味・雑味の順番で溶け出す」という、これまでコーヒー業界にあった一般的見地が覆る可能性が高いのです。

つまり4:6メソッドというのは一見科学的なようで、ドリップ全体の中のまだ科学的に解明されていない一部を切り取った説明がされており、その他の「温度」「湯量」「挽目」「撹拌」「抽出時間」などの要素にくらべ、その効果が極めて曖昧である、というのが当店の結論です。

・投入量と味わいに関するスコット・ラオ氏の説明
上記の4:6メソッド以外にも投入量の調節に関しては様々な議論と理屈付けがありますが、ここではスコット・ラオ氏の見解を紹介したと思います。
投入量を小分けにするとドリッパー内の温度が低くなり湿ったような酸味になる
→当店の見解:ドリッパー内の温度低下が大きくなるという包括的なデータがない。(相当に室温、ケトルとドリッパーの材質に依存する)
投入量を小分けにすると濃度勾配が大きくなり、抽出濃度が高くなる。
→当店の見解:すでに上述しましたが、小分けにして投入したお湯の濃度勾配の平均が、一括投入した場合より高くなるとは限らない。小分けにした場合に抽出濃度が高くなるのは、単純に時間が長くなったからと解釈可能である。

いかがでしょうか?ここまでかなり長く、投入量と味わいの変化の議論を見てきましたが、これに関して現在コーヒー業界での科学的なデータに基づいたコンセンサスは存在しません。従いまして当店では。「温度」「湯量」「挽目」「撹拌」「抽出時間」など、明確な要素を調整することで、美味しいコーヒーをドリップすることに専念しています。もっとも今後科学的にもっといろいろわかってきた頃に、投入量の配分を再考することはあるのかも知りません。

フィルターペーパーのリンス

一部のコーヒーショップやバリスタはドリップをする前に、ペーパーフィルターをセットした状態でお湯をまんべんなくかけることを推奨し、これをリンスと呼んでいます。このリンスを行う理由としては「ドリッパーを温め、抽出中のドリッパー内の温度を保つ」「リンスを行うとドリッパー内の水量が均一になりチャネリングが減る」と説明されることが多いです。しかし当店ではリンスを行っても、これらの現象を確認、測定することはできませんでした。従って当店ではリンスを行っていません。

ドリッパーのバイパス問題

上述の「チャネリング」に似ていますが、たとえ撹拌を行ったとしても、どうしても水流の流れから滲出時間が短いままドリッパーを通過してしまう分量が存在します。現在はその問題(バイパス問題)を解決するために、円筒形のドリッパーなども開発されているようです。しかし2026年2月現在は、やはり円錐形のドリッパーを採用するコーヒーショップがほとんどという状態です。

TDS

TDSとは「Total Dissolved Solids(総溶解固形分)」の略で、水中に溶け込んでいる無機塩類や有機物の濃度を表す水質指標です。SCA(Specialty Coffee Association)は「ゴールデンカップ基準」として、TDS 1.15%-1.35%を提唱しています。これは、統計的に最も多くの消費者が「バランスが良い」と感じる領域を定義したものです。
バリスタやホームブリューワーから収集した大量のデータを基に分析したところ、TDS 1.29%が感覚的な複雑さとクリーンさのバランスを最も高めると結論づけた研究もあります。これは、伝統的なSCAの基準を実証的に裏付ける結果となっています 。
ただしこちらのTDSは、測定に5万円前後の機器が必要なため、ご家庭では導入が難しいと思います。当店ではアタゴ「ポケットコーヒー濃度計 PAL-COFFEE」を利用していました。
しかし実際に測定してみると測定場所の光の強さなど影響で、ブレが大きかったです。またTDSは上記TDS 1.15%-1.35%のレンジに収まることが多いものの、豆によって結構な差があり、必ずしも「このレンジに入ったドリップ=最高の抽出」とは言い切れないことがわかりました。測定のブレの大きさと、豆の個体差、この2つの要因のため今では当店では、TDSはカッピングの際も測定していません。

ミネラル(硬水/軟水)・pH・アルカリ度がコーヒーの味に与える影響

コーヒーの味は「豆」や「抽出レシピ」だけでなく、使う水でも大きく変わります。水でよく話題になるのが pH ですが、コーヒーの味を左右する上で重要なのは、実は pHそのものより「アルカリ度(緩衝能)」 です。
pHとは?
pHは「今この水がどれくらい酸性/アルカリ性か」を表す数値です。
pHが低いほど酸性、高いほどアルカリ性です。ただし、pHは“その瞬間の状態”を示すだけで、酸に対してどれくらい耐えられるか(受け止められるか)はわかりません。
アルカリ度とは?(コーヒーではここが重要)
アルカリ度は、主に 重炭酸イオン(HCO₃⁻) によって決まる「緩衝能(バッファ能)」です。
簡単に言うと、
* コーヒーの酸を、どれくらい中和・緩衝して“弱められるか”
* 酸が入ってきてもpHがどれくらい変わりにくいか
を表します。
pHとアルカリ度はどう関係するの?
関係はありますが、同じものではありません。
* 重炭酸(HCO₃⁻)が多い水は、酸を受け止める力が大きいので、結果として pHが高め(弱アルカリ寄り) になりやすいです。
* でも、pHが高いからといって必ずアルカリ度が高いとは限りません。
逆に、pHが7前後でもアルカリ度が高い水/低い水が存在します。
なので、コーヒーで「酸味が丸い・フラットになる」などの変化を説明するときは、pHよりアルカリ度(重炭酸)を見る必要があります。

味への影響
アルカリ度(重炭酸)が低い水
コーヒーの酸をあまり受け止めないため、酸味がそのまま出やすく、明るくシャープに感じやすいです。
ただし、アルカリ度が低すぎると酸味が尖り、「酸っぱい(Sour)」方向に感じられることがあります。
※これは必ずしも抽出不足とは限らず、水が酸味を丸めないことでも起こります。
アルカリ度(重炭酸)が高い水
重炭酸がコーヒーの有機酸を中和・緩衝するため、酸味が抑えられ、マイルドに感じやすくなります。
ただし高すぎると酸味だけでなく風味の輪郭も弱まり、**平坦(Dull/Flat)**になったり、重たく感じたりすることがあります。

硬度(ミネラル:カルシウム/マグネシウム)も重要
アルカリ度が「酸味の出方」を決めるのに対して、硬度(ミネラル)は「溶け出し(抽出)やボディ感」に関与します。
* カルシウム(Ca²⁺):適量でボディ感やまとまりが出やすい
* マグネシウム(Mg²⁺):風味の引き出しに効きやすく、複雑さに寄与するとされる

まとめ
* pHは目安にはなるが、味を動かす主役は「アルカリ度(重炭酸)」
* 酸味を立たせたい → アルカリ度低め
* 酸味を丸めたい → アルカリ度高め(ただし上げすぎるとフラット)
* 風味の出方やボディ感には 硬度(Ca/Mg) も関係する

SCAのスタンダードでは、抽出水が中性(pH 7前後)で、適切なミネラル含有量(TDS 75-250 ppm)を持つ水が抽出に最適であると述べられています 。

美味しいハンドドリップの淹れ方まとめ

この記事でご紹介したように、ハンドドリップでは数々の要素により、その味が左右されていることがおわかりいただけたと思います。当店では中級編までで紹介した「誰もが認める明瞭なコントロール要素」をしっかり精査、調整することで、お客様にご満足いただけるコーヒーを提供したいという姿勢です。
いままでもこれからも、コーヒー業界では様々なドリップ、抽出方法が取り沙汰されることでしょう。しかし派手な理論のなかには、よく考えてみると理屈としておかしなもの、裏付ける実証データがないものも存在します。コーヒー業界に身を置くものとしては踊らされるのではなく、かといって門前払いをするのではなく、きちんと調査、検討してお客さんの満足する一杯につなげていくことが大事かなと感じております。